私は小さい頃から歯が悪く、定期的に歯医者に通っております。先日は数年前に治療した奥歯のブリッジがダメになり、抜きました。先生は「仕方ないけど、入れ歯かインプラントだね・・・。」と仰っていました。
私の感覚としては、失礼な言い方ですが、「治療すればするほど悪くなる」ような気がしてなりません。私は30代前半なのですが、少なくとも私の同年代の知り合いの中には入れ歯の人はいません。
それとも、「歯」なんて、「そんなもの」(すぐにダメになるもの)なのでしょうか?
何か意味不明な質問で申し訳ございませんが、先生のご意見をぜひお伺いさせて頂きたいと思います。よろしくお願い申し上げます。
(ONYSさんより)
<質問11に対する回答>
ここ最近、このような歯の悩みをお持ちの方がよく来院されます。「治療すればするほど悪くなる・・・。」(-_-;) 中には歯科の主治医から直接「いくら治療してもどんどん悪くなるばかりだ。もう来るな」と、治療を拒否されてしまった人もいます・・・。(-_-;)
このような「歯の悩み」をお持ちの方は、「自分は生まれつき歯の質が弱い」、「歯の磨き方が悪い」などと思い込んでいる人がほとんどでしょう。そして、内心・・・(治療した歯医者がヘタクソなんだ)・・・決して口には出しませんが、このように思われている方も少なくないと思います。それもそのはず、治療が必要な歯の半数以上は、過去に治療をしている歯であることが多いのです。
しかし、我々歯科医師から見ると、「悪くなるのは、手入れ(歯磨き)や管理(定期健診など)が良くないからだ」と、思っています。「医学的に間違いのない治療を行なっているのに、すぐダメになるのは手入れ(歯磨き)や管理(定期健診など)を怠っているからだ」と、言われた方も多いと思います。
ここで、患者サイドと歯科医師サイドの「思い」が食い違います。
患者サイドは、「もしかしたら治療のやり方が間違っている(すなわち「ヘタクソ」な治療)なのではないか??」と思い、自分なりに手入れ(歯磨き)は一生懸命やっている。
一方、歯科医師サイドは手を抜くことなく、医学的に正しい治療を一生懸命やっている。
このように、お互い努力しているのに、歯はダメになる一方・・・。一体、何が問題なのでしょうか?
・・・そうなのです、このような場合、患者サイドも歯科医師サイドも決して悪くはありません!問題なのは、「口の中の環境が、歯をダメにしやすい環境だから」なのです!
「口の中が歯をダメにしやすい環境」・・・ちょっと分かりにくい表現なので、口の中の環境(状態)が「むし歯になりやすい人」を例にとって説明します。
「口の中の環境がむし歯になりやすい状態」の場合、いくら歯磨きや治療を頑張っても、その環境が改善しない限り、むし歯は必ず再発します。単なる治療や歯磨きだけでは、むし歯になりやすい環境を改善することは出来ません。では、一体「何が」、口の中の(むし歯になりやすい)環境に影響(原因)しているのでしょうか?以下に、その影響力の強い順に述べていきます。
・原因1(影響力ナンバー1):「むし歯菌(ミュータンス菌)の数」
=「むし歯菌(ミュータンス菌)」は、常在菌です。「常在菌」とは、誰の体にも生息している細菌のことです。しかし、その「数」は、人(個体)によってかなりのバラつきがあります。
当然、むし歯菌(ミュータンス菌)の数が多ければ、その分「むし歯になりやすい」ということが言えます。
これは、唾液を検体として調べてみると判明します。「むし歯菌(ミュータンス菌)の数」がケタ外れに多い人もいれば、「ゼロ」に近い人もいます。
・原因2(影響力ナンバー2):「歯に加わる非生理的な力」
=「歯に加わる非生理的な力」で代表的なものは「歯ぎしり・食いしばり」です。これにより、歯に「ヒビ」が入り、奥歯や、前歯の歯間部がむし歯になりやすくなります。これに関しては、<質問10に対する回答>などを参照してください。
・原因3(影響力ナンバー3):「唾液の量と質」
=「唾液」は、歯や体に大変良い働きをします。食物の消化を助けたり、「毒消し」作用があったり、酸性に傾いた口の中を中和する作用(緩衝作用)や「再石灰化作用」などです。
「再石灰化作用」とは、溶け出した歯質を修復する作用で、顕微鏡レベルでしか観察できないようなごく初期のむし歯(目では見えない)の場合は、完全に修復されると言われております。
このような良い働きをする唾液の量が多く、サラサラした質であれば、虫歯になりやすい細部にもよく流れ込み、「再石灰化」が行なわれやすく、むし歯もできにくくなります。
しかし、口が常に渇き気味で、唾液の量が少なく、ネバネバしている質の場合は非常にむし歯が出来やすくなります。
・原因4(影響力ナンバー4):「食物が口に入っている時間」
=例えば「間食」が多い人は、口に食物が入っている時間が長いです。その分、むし歯菌が食物を取り込み、作り出す「酸」の量が多くなり、口の中が「酸性」に傾きます=歯が溶けやすくなる=むし歯が出来やすくなります。
・原因5(影響力ナンバー5):「むし歯予防製品の使用」
=最近、フッ素やキシリトール入りのむし歯予防製品や、消毒効果を謳った製品がかなり出回っていますが、これを使用しているかどうかによっても、むし歯の出来やすさが「若干」違うようです。しかし、劇的な効果は期待できません。
・原因6(影響力ナンバー6):「歯磨き」
=「むし歯予防」という観点のみで考えると、「歯磨きの重要性」は6番目なのです。
・・・と、言うわけで、「むし歯になりやすい人」は、6番目に影響する「歯磨き」よりも、1番目〜5番目に影響する要因が、むし歯になりやすい状態を作り出している、といえます。
つまり、「むし歯菌(ミュータンス菌)」の数が多くて(原因1)、「歯ぎしり・食いしばり」などがあって(原因2)、「唾液」の量が少なくネバネバした質で(原因3)、食事も不規則で(原因C)・・・・・という人は、「口の中がむし歯になりやすい環境」になってしまっています。こんな環境であれば、いっくら「歯磨き」(むし歯を予防する影響力は6番目)を頑張っても、治療を繰り返しても、次々とむし歯になります。
逆に、「むし歯菌(ミュータンス菌)」が少なく(原因1)、「歯ぎしり・食いしばり」もなく(原因2)、「唾液」の量や質もまあまあ(原因3)、「食事」もまあまあ規則的(原因4)・・・・・という人は、「口の中がむし歯になりにくい環境」であるといえます。従って、このような人は「歯磨き」がいい加減でも、むし歯になりにくいのです。
ご質問を頂いたONYSさんは、もし「むし歯」が原因でブリッジがダメになってしまっている場合は、上記のような状態(口の中が「虫歯になりやすい環境」)だったのではないか?と、考えられます。
こんな状態では、治療して、歯磨きを頑張ってもすぐダメになるのは頷けます。
歯がダメになる「むし歯」以外の原因として、「歯周病」もあります。この「歯周病」も、上記のような観点から見ると、「歯磨き」以外の要因が多くあります。・・・これ(歯周病が悪化する「歯磨き」以外の要因)については、また別の機会にお知らせします。
では、このように、口の中が「むし歯」や「歯周病」になりやすい方は、どのようにすれば良いでしょうか??
「むし歯」に関して言えば、前述の「原因1〜6」を解決するような処置や対策をすべきです。
:原因1「むし歯菌の数が多い」場合
=この「むし歯菌」、数を減らすことは簡単にできません。「消毒効果」を謳った市販の洗口剤を使っても、細菌が減る時間はごくわずかです。約15〜30分後には元の数に戻ってしまいます・・・。(-_-;)
これはもう、むし歯菌や歯周病菌に打ち勝つだけの「免疫力」や「抵抗力」をつけるしかありません。必要なのは「歯磨き」ではなく、お体の「健康の維持・増進」です。
「健康の維持・増進」を行なうなら、日頃の生活習慣の見直しもそうですが、当院の推奨する「適切な歯科治療」が必ず必要になってきます。「適切な歯科治療」とは、「歯科素材(金属・樹脂)アレルギー治療」や「かみ合わせの調整治療」などのことです。これは、他のQ&Aの回答や「歯とからだ」のコーナーを参照してください。
:原因2「歯に加わる非生理的な力」(歯ぎしり・食いしばりなど)
=これも、原因を解決する治療や、生活習慣生活習慣の改善が必要です。「歯ぎしり・食いしばり」の解決法に関しては、<質問10に対する回答>を参照してください。
:原因3「唾液の質と量」
=これは、ただ単に「水分が足りてない」人から、常用している薬の副作用や、病気(全身的な疾患)による症状の1つによることもあります。
水分が足りなければお茶等で補うのも1つの方法ですし、人工の唾液成分の入ったタブレットも有効です。全身的な疾患の場合は、その治療も必要です。
:原因4「食物が口に入っている時間」
これは、食習慣を含めて「生活習慣」そのものを変える必要が出てきます。しかし、コックさんなど飲食関係の仕事をされている方で、「味見」をしながらの仕事の場合、この環境を改善するのは非常に難しいですね・・・。(-_-;)こういう場合は、その他の項目を、なるべく「むし歯になりにくい理想的な状態」にしていくしかないですね・・・。
後は、原因5や6も良い状態にしていけば、理論上、口の中の環境は少なくとも以前より「むし歯になりにくい状態」に改善されます。
そして「理想的な歯の治療」を行ない、さらに定期的な「予防処置」を行なうことにより、「むし歯や歯周病になりにくい安定した状態」を末永く保っていけば、歯も原因の1つとして起こる全身の様々な病気や不快症状をも予防できます。
実はこの「むし歯や歯周病の予防処置」、今から約30年前(1974年)に、スウェーデンでは全国民を対象として行なわれ、これを国民の義務としました。そして約30年、この「むし歯・歯周病の予防処置」を受け続けたスウェーデン国民は、どうなったでしょうか?
まず、約10年後の1985年には、入れ歯の人口が17%から、なんと3%台にまで減少、生活習慣病(高血圧・心臓病・糖尿病など)が激減、そのため老人達の「寝たきり・痴呆」などがほとんど起こらず、健康で素晴らしい老後を過ごしている方がほとんどで、いわゆる「老人ホーム」がどんどん無くなっているそうです。
その結果、スウェーデン国民医療費の増加は抑えられ、スウェーデン国民の「老後の不安」は一掃され、なんと「出生率」が上がり、「小子化」にストップが掛かっているそうです。これは一体、何を意味しているのでしょうか?
それに比べ、日本の現状は・・・。現在、「寝たきり」または「準寝たきり」の人たちは200万人以上いるといわれています。その数は、毎年10%ずつ増加しているとも言われています。寝たきり・痴呆の人が激増、老人ホームは増え続け、生活習慣病の人も若い世代でも当たり前のようになってきている。このため、国民医療費は年々増加し、老後や将来の不安感から小子化や景気低迷が起こっている・・・。スウェーデンとはまるっきり逆の現象が起こっています。
そんな状態なので、本来ならこの「むし歯・歯周病の予防処置」を全国民を対象に、今すぐにでも「義務化」すべきなのですが・・・「必要な医療」までもが切り捨てられている現在の日本の現状医療を考えると、非常に難しいと思われます。今の日本の「健康保険」は、「病気(疾病)の治療のみ」を対象としているため、健康人を対象とした「予防処置」は、健康保険の適用範囲ではないのです。もし、このような「予防処置」を継続的に受けたいという方は、(保険適用がないので)100%費用自己負担で受けなくてはなりません。日本でこのような「予防処置」が普及しない理由のひとつは、ここにもあるような気がします。
しかし、そんな状況にもめげずに、「予防処置」の重要性を認識し、治療のシステムに取り入れている先生方も最近は多くなりました。当院でも、ようやく「むし歯・歯周病の予防処置」のシステムを構築し、もう間もなく開始できると思います。「予防処置」をご希望の皆様、もうしばらくお待ちくださいませ。
と、言うわけで、かなり脱線しましたが,ONYSさんの場合、まずは「理想的な歯の治療」(歯科素材アレルギー治療やかみ合わせの調整治療など)を行なって「全身の免疫力」を高め、その「治療直後の良い状態」を維持すべく、定期的かつ継続的な「予防処置」を行ない、「歯を悪くしやすい口の中の環境を改善」していけば、少なくとも今までのような「治療すればするほど悪くなる」のも防げると思います。
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